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女将も、そんな四季の思いを察したのだろう。
ややあって小さな溜め息をつき、四季の問いに答えて見せた。
「いえ、長いことここを営んでいますが、そんな話は初めて聞きましたねぇ」
女将のその言葉に、四季の表情が思わず強張る。
それはつまり、あの映像を見せられたのは、自分だけであるという事。
その事実が、四季を困惑へと叩き落としていた。
「あのぉ……。どうされましたぁ?」
「え、あっ、いえ……」
そんな四季の表情に気付いた女将は、やや遠慮がちに問い掛ける。
しかしそこは人付き合いの苦手な四季。
言葉にならない返答をする事しか出来なかった。
それに何より、今の四季は考えを巡らせる事で精一杯。
次の瞬間四季が口走った言葉は、そういった理由が起因していたのだろう。
「あ、あの……。ありがとうございました。私、失礼させて頂きます」
突然そう言われ、女将の目が思わず点になる。
しかしそれも正に一瞬の事で、次の瞬間にはお決まりの柔らかな笑みを浮かべていた。
「そうですかぁ。お役に立てなくて、御免なさいねぇ」
「い、いえ……」
四季は反射的にそう答えると立ち上がり、逃げるようにこの場を後にする。
女将と四季の会話は、こうして半ば無理矢理に終了したのだった。
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