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女将との会話の後、部屋に戻った四季は壁にもたれ掛かって一人思案に暮れていた。
彼女が考えている事とは、帰るべきか否か。
彼女からしたら、至極当然の考えである。
なにせ……気持ち悪い。
これまでは時折姿を現すだけだった座敷童子が、彼女にだけは不可解な映像と鞠を残していったのだ。
何か見えない策が渦巻いているかのような、得体の知れない気持ち悪さ。
それに魅入られた人間からしたら、その場に留まり続ける事に何の疑問も持たないのは異常な事である。
しかし今の四季にとって、その決断を憚らせるものがあった。
それは明確な理論によって裏付けされたような、それではない。
ただなんとなく……なんとなく帰るべきではないような、そんな思いが彼女を包み込んでいたのだ。
それは四季自身、どういった理由に起因しているものかは分からない。
ただ、座敷童子が伝えんとしている事を見届けてやらなければならないような……そんな不思議な使命感に襲われていた。
自己防衛本能と、使命感の葛藤。
そしてそれは永い永い思考の末、使命感の方が上回った。
「仕方ない……。もうちょっと残ってみるか……」
四季は深く溜め息をつくと、そう呟く。
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