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ここがどこかは分からないが、周囲の木々を見れば、どこかの山中である事だけは明らかだった。
そんな中、彼女の目の前には黒い人の身長程のもやがたゆたっている。
景色はセピア一色だというのに、それだけは深い黒を称えた、不思議なもやが。
四季はそのもやの存在や、自分がこんな場所に居る事にはなんの疑問も抱かず、ただそのもやを虚ろな目で眺め続ける。
やがてそのもやに波紋が広がったかと思うと、その中から鉛のように重苦しい声が響き渡った。
“ユルサナイ……”
その声を聞いても、四季は何も反応を示さない。
そんな四季に対して業を煮やしたのか、もやは再び波紋と共に言い放つ。
“ゼッタイニ……”
そしてその声が響いた瞬間、四季の視界は突然切り替わった。
目の前に広がるのは、自分に割り当てられた御幸荘の一室。
その景色を見た瞬間、四季は自分が今まで夢を見ていた事を知る。
どうやら器用にも、壁にもたれ掛かったまま寝入っていたようだ。
「また……あの夢か……」
四季があの夢を見るのは、今日が初めての事ではなかった。
初めてあの夢を見たのが、いつだったかは覚えていない。
つまりそれはあの夢が、四季にとってそれ程長い間付きまとってきたものであるという事を意味している。
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