【承】

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あるいはこの言葉しか口にしない事に、なんらかの意図があるのかもしれない……というのは些か考えすぎだろうか? そしてその言葉を契機に、二人の間には静寂が舞い降りる。 四季は座敷童子を、座敷童子は四季を視界の中心に捉えたまま、お互いに視線を逸らさない。 ……いや、四季の場合は逸らさないのではなく、逸らせないだけなのかもしれないが。 とにかく、今の二人は、まるで行動というものを忘れてしまったようにさえ見える。 そんな中、先に静寂を切り裂いたのは意外にも四季の方であった。 「……あ、貴女は?」 気付いたら四季がそう問い掛けていた事には、深い意図など無い。 強いて言うならそれは、半ば反射的に問い掛けてしまっただけだったのだろう。 しかし、それは切っ掛け。 現れては消え、現れては消えを繰り返す座敷童子と、自らの鼬ごっこを変える切っ掛けであった。 事実、四季がそう問い掛けた事で、座敷童子は初めて例の言葉以外の言葉を口にする。 「はい」 あどけない口調でそう言ったかと思うと、突如四季に向かって手を伸ばす座敷童子。 それは手のひらを上に向けており、まるで四季に何かをねだっているかのようだった。 四季はその行動の意味が一瞬理解出来なかったが、それも正に一瞬の事。
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