【起】

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例え座敷童子が現れる、などと言う縁起のいい噂があったとしても。 「御荷物を御持ち致しますぅ」 そんな四季の考察を他所に、いつの間にか正面に立っていた女将が声を掛ける。 「あ、はい。どうも……」 「では、どうぞこちらへぇ」 半ば流されるようにして荷物を預けると、女将は旅館の内部へと歩き出した。 四季も周囲を軽く見回しながら、それに付き従う。 やはりと言ってしまえばそれは失礼に当たるのかもしれないが……どうも人の気配は感じられない。 いや、正確には僅かとはいえ宿泊客も居るのだろう。 先程敷居を潜った時も、一般人らしき人物の靴を何足か見掛けたし、それに宿泊客が一人も居ないようでは、こんなところを経営していける筈がない。 ただそれでも、普通の旅館の比べれば廃れていると言う他にないだろう。 「ごめんなさいねぇ……。こんな寂しい所でぇ……」 「は、はいぃっ!」 四季の思考を見透かしたような女将の言葉に、彼女は思わず過剰な反応をしてしまう。 女将は僅かに振り返ると、口元に手を当ててクスクスと笑みを溢す。 「そんなに驚く事じゃありませんよぉ。私だって客として案内されたら、そう思いますものぉ」 「はぁ……」
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