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それを聞く限り女将はこの旅館の小ささを自負しているようだが、それを笑い事に客と談笑を出来る辺り、やはりこの道のプロなだけある。
四季がそんな事を考えている内に二人は突き当たりを右に曲がり、女将はそこからすぐの場所にある襖を開けた。
「ではここが御客様の御部屋になりますのでぇ。ごゆっくりとお寛ぎくださいぃ。何かありましたら、すぐに呼んでくださいねぇ」
「あぁ、はい……」
言いながら四季は預けていた荷物を受け取り、客間へと足を踏み入れる。
その瞬間、畳独特の匂いが四季を迎え入れた。
部屋の中は然程広くないが狭くもなく、整然と片付けられていると言えば聞こえはいいが、実際は物自体が少ない。
正に可もなく不可もなく、と言ったところだ。
まぁ過ごすのは週末である今日明日のみであるし、多少不便でも気にはならない。
いや、言ってしまえば多少の不便さを味わう事すらも旅の醍醐味と言えるだろう。
「それではまたぁ」
「あ、はい」
言うや否や女将は襖を閉じ、どこかへ消える。
四季は今になって気付いたが、先程から女将とまともに会話を交わしていない。
ただ女将の言葉に、適当に相槌を打っているだけだ。
この辺りに、彼女の人見知りする性格が如実に表れていると言えるだろう。
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