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四季の早すぎる一日は、こうして幕を下ろそうとしていたのである……。
*
「お姉ちゃん……」
……声が聞こえる。
どこか遠い場所から……いや、近い場所からな気がしないでもない。
鈴のように軽やかで、あどけなさの残る声が……いや、風鳴りのように重苦しく、どこか冷めた声にも聞こえる気がする。
四季は半ば夢心地のまま、輪郭の定まらないその声に耳を傾けていた。
「お姉ちゃん……」
声が再び響く。
なんだというのだろう……?
夢とは違う。
相変わらず輪郭は定まっていないが、その声は確かに夢よりもはっきりとした形を持っていた。
それに気付いた瞬間、四季の寝惚け眼が見開かれる。
夢じゃ……ない……?
だとしたら誰が……。
四季の目に映る部屋はまだ薄暗く、世界がいまだ夜の闇に包まれている事を実感させる。
しかしそれが問題なのだ。
こんな時間に、誰かが起こしに来る筈がないのだから。
「お姉ちゃん……」
四季のそんな思考には御構い無しに、その声が再び静かに響く。
四季はこの時になり、やっと恐怖を感じ始めていた。
一度静かに固唾を飲み、視線を上へ上へとスライドさせる。
その先にあるのはこの部屋の入り口である襖。
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