第壱章 双子

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 ━━僕 は 夢 を み て い る 。   遥か昔に起こった出来事を、時系列順に思い出しながら。  夢の中での僕は、とある世界に足を踏み入れていた。 この世界の住人だった者達が絶滅寸前にまで追い込まれ、緑を中心とした黴<カビ>共が跋扈<バッコ>した荒れ果てた世界。 大地も海中も天空も、全てが黴に侵されている。 細かな黴の発生条件などは無視、と云うよりは増幅、或いは強化されている。 もはや、天変地異と呼べる現象として黴の発生が巻き起こっているのだ。 「  、           」  独り言を漏らしながら歩き続ければ、土と黴が混ざり合った汚泥のぬかるみに足を取られるし、戯れに呼吸をすれば大気中に散らばる黴の胞子を肺に取り込んでしまう。  二日前に海沿いを通ってきたが、海面にはびっしりと大量発生した海月の様に丸々とした黴が浮かんでいた。  現在は中心部までやってきた僕の眼界に広がる壊れた住宅や御殿が建ち並んでいるところを見ると、ここの住人達はまるで自分が守護する国民達の様に暮らしていたのだろう。 平安時代に貴族の住まいとして誕生した寝殿造り。 鎌倉時代の武士の住まいであった武家造り。 室町時代へと続いていく書院造りと、人の歴史を準える様に。 逆もまた然りで、彼等の歴史は日ノ本の人間の歴史と云っても過言ではない。 これだけの数の建築物を見れば、かなりの数の者達が暮らしていた事が判る。 ━━それこそ、八百万と云ったところか。  だが予想は出来るものの、見渡す限りの視界に生存者が居ないので確かめようもない。 一度は栄えていた頃のこの世界の美しさを見てみたかった気もするが、実行に移さなかった自分を鑑みると答えは出てくる。 皆が安らかに生命を謳歌する幸せに満ちみちていた過去の世界ではなく、荒廃しきった現在の世界だから僕は興味を抱いた。 ここが未来永劫、一度も影を落とすことなく栄えていたのなら、僕は未来永劫、ここに来ることは無かった。 きっとそうなる事が、この世界には良かったのだろう。 ━━そうなる事は、この世界にはきっと無かったけれど。  そんな荒れ果てた世界の中央に建つ摩天楼だけは、黴て朽ちてきているが崩壊には至っていない。
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