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「ただいま。陽子さん調子はどうかの?」
「坂本さん、お帰りなさい。もう少しで着こなせますよ。夕飯の買い物、お願いします。」
私の代わりに、返事をしたお登勢さんが龍馬に買い物を頼んだ。
「気にしないで。今日は落ち着いているから。」
俯いた私を諭す様に、お登勢さんは着付けを教えてくれる。
(何となく、コツが掴めているかも知れない。)
辺りも暗くなって、提灯をぶらさげた人がぽつぽつ行き来する様になった頃、息を切らした龍馬が帰って来た。
「お登勢さん、申し訳ない。近くの店は何処も売り切りで、橋向こうの店まで行ってみたんじゃ。」
「わざわざすいません。ありがとうございます。」
襖の向こうで、二人の会話が聞こえる。
時が過ぎるのは、何処に居ても早い。
ただ違うのは、星明かりが一面に広がって碁盤の町並みを照らす光景だけ。
(もう少し。あと少し。)
襟元のたるみは?
帯留と裾の高さは?
色んなバランスを考えながら一つ一つ、浴衣を羽織ってゆく。
(桂さんや、高杉さんの所に行くなら連れていって貰おう。うん、そうしよう!)そう考えたら、何だか楽しくなってくる。
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