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「昨日は、本当に驚きました。襦袢で、飛び込んでくるんですもの。」
約束通り、私は昼過ぎから着付けを教わっていた。
「龍馬さんに何かされたんじゃないかって、心配になりましたよ。」
「すみません。。」
あのあと、お登勢さんはほうきを片手に私を追い抜いて部屋に向かった。
そして、蹲る龍馬につかみかかったっけ。
(絶対、怒らせてはいけない。)
揺さ振られる、龍馬をみて固く誓った。。
「帯は、少しきつめに締めること。ずり落ちてしまいますから。」
「はい!」
深紅の帯を巻きながら、慣れない苦しさと難しさでいかに洋服が便利かと思い知らされる。
(いかに、楽をしてきたかが解ったわ。)
そう思ったら、急に恥ずかしさが沸いてきた。
「情けない。。」
上手く、帯を締められない事に悲しさと悔しさがこみあげてくる。
(絶対に、絶対に着られるようにならなきゃ。)
龍馬達の為にもなるけれど、一番はこの時代で生きていかなくてはならなくなった自分自身の為。
(帰るんだ!家族やみんなの所に。全身揃えて、BABYを着るんだ!弥生美術館にも行くんだ!)そんな思いに駆られながら、がむしゃらに着付けをした。
その日の夜、襦袢でアクセサリーを身にまとった私は、部屋の片隅で久しぶりに中原淳一の本を読んでいる。
「良かった。本が消滅してなくて。」
事故に遭ったとき、教科書と共にカバンの中に入れていた中原淳一の本と、おおたうにの本は無事だった。それどころか、新品同様に綺麗になっている。
知らない所に、居る私にとって本が支えの一つになっている。
(もし、この時代で本を無くしたらどうなるんだろう。)
考えても、想像がつかない。もしかしたら、歴史そのものが変わってしまうかもしれない。
ミニバッグに入れ直し、カバンの底に入れ直してから私は深く眠りに就いた。
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