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‐セイレキ:30XX‐
真っ黒な雲が幾度と無く月の姿を隠し、薄くちぎれて流れていく。
荒れ果てた地上に巣食う様に生きる女達。
こそこそと昼日中もよる夜中も隠れまわり生活を送る。
そうやって生き延びて来た者達。
しかし、その生活とは言えない生活でさえ日々脅かされていたのだ。
-迫って来る……人間離れした強化人形が。-
-この世の中から女を消すために。-
-何で、女が何をしたの?。-
-新たな命を生み出す女が居なくなれば、人の世は滅んでしまうのに。-
荒廃した建物の残骸が足元に転がり、すっかり更々とした砂が一面に広がるこの街。
かつてはビルや建物で灰色だった景色も、アスファルトやコンクリートだった地も、今は存在していた事さえ信じられ無い景色だ。
赤土は吹きっさらしの風に乗り、女達の肌を覆い少ない水分を奪う。
夜の闇に紛れ、隠れ家を襲撃された逃げ惑う人々と爆発の合間を縫うように走るある女が1人。
わずかに残った昔のコンクリートやアスファルトは赤土に埋もれ、ガラスのようには丸くならず、裸足同然の女達の皮膚を傷つけている。
血が出て本能的に赤土を踏んで逃げようと足が向く故に、女達の行く手を阻むことなど安易に予測できるのであろう。
百人満たない女達が非道に消されていく。
確実に迫る悲鳴と泣き声は、女のすぐ後ろで死を纏い差し迫った。
死に抗おうとする女は、必死に走りながらも確かに走馬灯を見ていた。
大剣が目の前で振り上げられ、それに身を斬られる、そんなフラッシュバックを幾度も幾度も……。
逃げ惑う人の叫び声、目の前で吹き上がる血飛沫。
事切れ冷えて積み重なっていく人の山。
そんな光景を脳裏で見ながら、いつしか足をもつぼらせ、地に這いつくばったまま恐怖で動けなくなった女の前に、走馬灯を再現する様に大柄で紅い髪の男が襲い掛かって来ていた。
-紅い髪の男の人?。-
-この人、知ってる?……。-
大柄な男が女の前に立つ。
女の走馬灯の中の彼と、目の前の彼が一致する。
何故、何処で会ったのか……懐かしささえ感じる筈なのに、“女”は分からなかった。
その女は発狂した恐怖の最中、彼がゆっくり振り上げる大剣に目を奪われる。
やがて女は、叫び声をあげる暇もなく、紅い髪の男が振り上げたその大剣に身を引き裂かれ、確かに死んだ……。
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