『私』

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ナインは又蚊帳の外に放り出されると、激しい顰め面で舌打ちを漏らしながら腕を組み柱に背をもたれた。 セカンド「ナイン!」 ナインの悪態に冷静なセカンドも、サードの隣から思わず声をやや荒げ彼の横顔を睨むが、山笠は無関心な声で手を煙たそうに振り制止する。 シド「よい、セカンド。シックスの回復が完了した。行くが良い」 蒼く和らいだ光に照らされ、カプセルの中のイヴ(羊水)に揺られて居た筈のシックスの姿はなく、既に5階から、いつの間にかここイヴカプセルの前に到着していた。 跪くシックスの銀色がかった白い髪や服は、不可思議なことに濡れておらず、彼は反射したイヴの薄く蒼い光に照らされながら神秘的な存在へと変えられ、やがて視線を地に静かな低い声を発す。 シックス「話はイヴの内で聞いていた。西のGフィールドに女は居ない。 父様、Iフィールドに数名と、セカンドと向かう南のBフィールドに一人」 その言葉に目を見開き、シックスを見詰めるセカンドは、可愛らしい顔を驚きの表情に変え、やや興醒めしたような声を発する。 セカンド「!! シックス、Bフィールド。 Bフィールドは人間が住めるような所ではなくなっているぞ」 シド「ほう。良いのだセカンド。だからこそ身を隠す為、その地を活かした。当然の選択だ」 驚くセカンドとは正反対に、年老いた彼の口元は半ば微かに笑っているように伺えた。 シド「では行くが良い。セカンド、シックス」 セカンド「はい」 シックス「御意」 冷静な山笠の声がセカンド達に命ずると、シックスと呼ばれる男はタッと地を一蹴りで階段手前で足を着く。 小柄で隠密担当なだけに身のこなしは誰よりしなやかで俊敏、セカンドもキリリと一礼の後、彼と共に颯爽とタワーから姿を消した。 シド「ナイン。何をしている。お前は今日私の付役だ」 山笠は一歩歩みだした後、背中越しにしかめ面を浮かべ声を放つ。 ナイン「ク…… はい、親父殿……」 残されたナインは柱から背を離しすと、悔しそうに歯を食い縛るり、大剣を背に堪えながら山笠に歩み近付いた。 シド「ではサード、後は頼んだ」 サード「はい、父上殿」 やや口元を吊り上げ笑う年老いた男は、ナインを引き連れ、跪きながら敬意を現すサードを横目に姿を消す。 サード「……Iフィールド、か」 サードは立ち上がると、1人になった静まりかえるフロアを見回しながら呟いた。 今はイヴカプセルの機会音のみが、彼を孤独にさせまいとするように、静かな音をたてている。
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