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家族の顔は知らないのに、家族がいつもどこで寝ているのかは分かる。おかしな話だ。
部屋を出ると廊下の電気も点けたままだった。親もいつの間にか寝てしまったのだろうか。
リビングに出るとソファで女性が寝ているのが見えた。おそらく母親だろう。こんなに寒いのに、毛布も何もかけていない。このままでは風邪を引いてしまう。
彼女に近づいてみると、女性の目は開いていた。驚いたように、目を見開いたまま眠っている。
冷静に言うのもなんだが、もうこの女性が目覚めることはまずないだろう。彼女は死んでいるのだ。
よく見るとこの女性はやはりさっきの写真に写っていた女性、つまり俺の母親だ。
目の前で自分の母親がこんな姿で亡くなっているのに、涙も出てこない。もっと言えば、悲しみの情さえ涌いてこない。空しさを感じる。
しかし死因はなんだろう。首を絞められた跡や刺された形跡はない。毒殺だろうか。
ソファの前に置いてあるガラス製のテーブルの上にはワイングラスが2つ。片方には赤ワインが注がれており、もう片方は倒れてワインがこぼれてしまっている。
この倒れたグラスの中に毒が入っている可能性がある。そうなると、もう片方のグラスの主による犯行か。まぁ、今考えたところで何も浮かばないだろう。
父親はどうしたのだろうか。いつも通り寝室だろうか。
…寝室に行ってみたが部屋にはいなかった。
父親はホテルマンであり、帰ってこないこともたまにあるのだが、昨日は俺の誕生日だったからずっと家にいた。午前中にケーキを買ってきて俺を祝ってくれた。
まさか父親の犯行なのか?もしそうだとしたら俺はもうどうしていいか分からなくなる。ただでさえほとんどの記憶を失っているのに…。覚えているのは家の間取りと家族に関するわずかな情報だけだ。
ここは警察に連絡するべきだろうか。
…電話を取ろうとした瞬間、見知らぬ男がキッチンに立っているのに気づいた。
俺は必死で逃げ出した。家を出て、階段をかけ下りたが、追手は来ない。
思い返してみると、あの男はさっきの写真の男性、つまり俺の父親ではなかった。別の男だ。あの男が母親を殺した犯人だろうか。体から力が抜けていった。座り込んでから、空を仰ぐと、だんだん星空が滲んでいくのが分かった。何もわからない空しさと悔しさで心がはち切れそうだ。
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