空白。

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 初めて外に出た気分だ。ようやく殻から抜け出した。ひんやり冷たい空気が肺に入ってくる。殻から抜け出すと、いろんな情報が脳内を駆け巡る。新しく入ってくる情報、既にある情報。すべての情報が整理されて、新たな道が生まれる。しかし、今自分には道が見えてこない。悲しいことに、脳内を駆け巡る程の情報量はない。それでも落ち着きは取り戻せた。  まず、今欲しい情報は、自分のことだ。自分のことも解らないのでは、自我を失ってしまうだろう。あとは…あの男のこと。自分とはどういう関係なのか、そして彼は最初から知らない人物なのか、それとも…。  腹が減った。父親の寝室に行ったときに、引き出しから10万円を抜いてきたから、金はある。父親のへそくりをくすねた訳なのだが、まるで空き巣をしたような気分だ。  ひとまずどこかで食糧を調達しよう。家の周りはさっき思った通り、閑静な住宅街だった。少し歩かなければコンビニすら無さそうだ。そうだ、さっき窓から見えた賑やかな方向に歩いていこう。  20分は歩いただろうか、ちらほら店らしき建物達が姿を見せはじめ、ついに商店街に出た。コンビニもある。とりあえずコンビニに入ろう。  そこはさほど大きくはないコンビニなのだが、焼きたての美味しそうなパンがパン屋のように並んでいる。美味しそうではあるのだが、パンにしては平均200円弱と少し高価だ。この先何があるかわからない。安い普通のパンにしておこう。  レジを通るとき、近くにあった卓上カレンダーが見えた。  …1月?!昨日は9月23日だったはずではないのか。  『今日は何日ですか。』  『1月…23日ですね。』  やはり1月だ。コンビニ店員に礼を言い、店を出た。4ヶ月も寝ていたというのか。いや、それとも4ヶ月分の記憶がまるごとないだけなのか。  自分と家族の記憶、住んでる町の記憶、そしてこの4ヶ月の記憶を全て失っている。どういうことだ。この4ヶ月間に何があったというのだ。知る術もない。自分の無力さに腹が立つ。自分のこともわからない。ここがどこなのかもわからない。今がいつなのかもわからなかった。母親は殺され、父親の行方も解らない。何も打つ手がない。頭が痛くなってきた。正直、もう生きていて意味がある気がしない。そのとき、鞄の中のサバイバルナイフが目に留まった。俺はコンビニを出て、ある決意を胸にその刃物を手に取った。
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