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「分かった分かった、もう泣かないで。僕の部屋へ行こう。二人で手当てしてあげるんだ。」
「うん。」
ロイの部屋へ着くと仔犬をそっと床へ置き、ロイが虫眼鏡を使って診察を始める。かなり衰弱は酷く、手当をしたとしても時間の問題でその内死んでしまう事は誰が見ても明らかだった。
しかし、期待する恭子に『死ぬ』なんていう言葉は絶対に言えない。
ロイは何とか治療を試み、罠で骨折した足には、添え木を当てて包帯で固定した。子供の割には、上出来な出来栄えだ。
「よし、これで手当て終わり!」
「これでこの仔犬は、助かる?」
「分からない。キョンちゃんが一生懸命看病してあげたら、助かるかもしれない…」
本当の事も言えず、それからロイは俯き、押し黙ってしまった。この気持ちが悲しさなのか、悔しさなのかさえ、自分でも分からなかった。
そんなロイの心中も知らず、恭子は安堵の笑みを見せる。
「仔犬しゃん、もう大丈夫でしゅよ。恭子のお兄様が、あなたの事を助けてくれたの。痛かったね、よしよし。」
もう治る見込みもない仔犬に対し、寄り添う様に熱心に看病をする妹を見て、ロイは居た堪れない気持ちで一杯になり、涙が溢れ出てきた。
仔犬は力無く、クンクンと恭子に甘える。そこでロイは思い出す。
『そうだ!あれしかない!』
先日聞いたお婆様の話だ。
そう、エクスカリバーの鞘の話だ。
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