序章

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 美しかった景色。  城から見える深緑の森も、その向こうにあった青い湖も、そして銀色に輝くレンガの装飾を彩った街並みも。  全てが見る影もなくなっていた。  今、広がる光景はまさに地獄絵図そのものだ。  至る所から火の手が上がり、美しい街並みを全て飲み込んでいた。  深緑の森も火の海となり赤く色を変え、おぞましい存在の者たちが流した毒のせいで美しかった湖は、黒い闇の色に変わり、空も鉛色に覆われていた。  焼け焦げた街の中、そこはかつて人々が笑顔を交わし歩いていたであろう道を、今は魔物たちが徘徊していた。  それらの足元には昨日まで暮らしていた人々の、見るも無残な姿が、まるで子供が捨てたいらなくなった人形のように転がっている。  だが、魔物たちはそれを喜ぶようにより一層不気味な声を上げ続けていた。 「父上……母上……」  深い空の色とも、海の色とも言える、美しいコバルトブルーの髪と深紫の瞳を持つ少年が呆然と立ち尽くしていた。  地下の薄暗いその場所で、わずかにあるランプの心細い灯し火が映し出す目の前の光景に、全身が何かに撃たれたような、しびれる感覚が走り抜けた。  自分の身長ほどの剣を手に、少年はゆっくりとその光景の中心に近づいていく。  そこにあったのはかつての父と母の無残に引き裂かれた姿が真っ赤な血の海に浮かんでいる光景だった。
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