序章

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  信じられないものを見るような瞳で少年はその光景を見下ろしていたが、やがてその少年の瞳は違うものを捕らえた。  それは血の海にまぎれて存在していた美しい魔方陣。 「……父上と母上が邪神を甦らせたのか?」  少年の声は震えていたが、確かにその言葉を紡ぎ出した。  しかし、言葉を口にした少年自身がそれを信じることが出来ない。    五百年前、この世界を暗黒に染めた恐ろしい魔族たち。  そのため、その魔族の長を誰からか『邪神』と呼ぶようになっていたのだ。  その魔族の名は『邪神アウティルーガ』。  邪神は五百年前に『勇者アーティア』と精霊神によって封印されたはずだった。  その封印を勇者アーティアの血を引くこの自分たち、アルバート王国の血族が守っていたのだ。  しかし、それをアルバート王国の王である父と女王である母は何故か封印を解いて魔物共々解き放ってしまったとしか思えない。 「レイティーラル王子!」  自分を呼ぶしゃがれた声がした。  それを聞いて少年は、慌てて地下室を飛び出した。  飛び出し、階段を駆け上がる途中で、その声の主と出会う。   彼はその声と同様、白髪で口元に白く長い髭をたくわえている老人で、落ち着いた緑の色のローブと樫の木で出来た杖を手にしていた。
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