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「グリズ! そっちは?」
「いえ、もう」
少年の問いかけに老師は首を横に振った。それは生存者が存在しないことを意味している。
「王子、ここを離れるのです」
「この国を捨てろというのか?」
「生きてさえいれば、国の再興も叶います」
「でも」
「しっかりしてください」
老師はしっかりと少年の腕をつかんだ。
「もう、邪神を倒すことのできる勇者の血を持つものはあなた様しかいないのですぞ」
「それでは……まさか、サフィルトも?」
「はい。サフィルト王国も先ほど、邪神軍によって落城したと知らせが届きました」
それはもう一つの勇者の血を伝える王国だった。
だが、その王国も魔物たちの手に落ちてしまったということを聞く。
「おそらく、誰も生きてはいません」
「そんな……」
「王子」
老師はぐっと少年の肩をつかんだ。
「もう、王子しかいないのです。偉大なる勇者アーティアの血を継ぐ者は、レイティーラル王子ただ一人。ですから、貴方様が、こんなところで命を落としてはこの世界は本当に闇に包まれてしまいます!」
「グリズ」
「今は、引いてくだされ。そして強くなり、邪神を倒す機会をうかがうのです」
老師の言葉に少年はうなだれるようにうなずいた。
「わかった。今は引く。そしていつか強くなって邪神を倒す」
「それでこそアルバート王国の王子です。さ、こちらへ」
グリズは少年の手を引いて地下通路を走り出した。闇の広がるその先に、いつか光が差し込む……そんな道を少年は走り出したのだった。
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