2人が本棚に入れています
本棚に追加
空は厚い曇に覆われ、暗く垂れ込めていた。
そこは生温かい、そして血生臭い空気が吹き抜けている無人の街。
かつては人々が賑やかに行き交っていたのだろうその場所は、ありとあらゆる建物が瓦礫の山と化した。
すでに街としての機能を果たしていた頃の面影はすでに無くなっている。
廃墟と化してしまった街は魔物の巣となり、至る所で響く不気味な声に満ちていた。
そんな、たくさんの異形の者たちが縦横無尽に行き交う、すでに街とは呼べないこの場所に、一人の人間が足を踏み入れていた。
その者の容姿は重く灰色の空とは正反対の、晴れ渡った青空と同じコバルトブルーの髪に薄紫のマントと白地のローブを風になびかせる、少年のような幼い面影が残る顔立ちをした、力強い紫の眸が輝く、とても印象の強い青年だった。
その青年の名は、レティル=セティ。
名の知れた魔道士だった。
レティルはモンスターが巣食う街をためらう事なく歩いていく。
湿度と血のにおいの混ざる風が吹く中、そのしっかりとした足を進めると街の中心部に辿り着く。
少し大きな広場。
白いレンガが幾何学模様に敷き詰められ、綺麗に整備されていたそこはかつては清水の流れる噴水だったのだろう。
噴水の中心には水の跡が残るオブジェもあった。
最初のコメントを投稿しよう!