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歩いている俺達の間に会話なんてなかった。
たぶんコイツはずっと自分を情けないと責め続けていたと思う。
もう少し強ければとか、あのときこうしていたらとか、過去を悔やみ自分が悪かったとすら思うだろう。
少なくとも俺がコイツの立場だったらそう考える。
だからこそ誰かの助けが必要、そう思った。
ゆっくり歩いて10分くらい経ったところで「ここです」と言う悠の家の前に着いた。
「すいません、いろいろとご迷惑おかけして。本当にありがとうございました」
「…情けないなんて思ってねぇよ」
「えっ?」
たったひとことで立ち直れるわけもないし、忘れられるわけでもない。
でも、何か少しでも考えを変えるための種にはなると思う。
「相手が誰であろうと怖いもんは怖いし、抵抗できないのは当たり前」
「遥斗さん…」
だから悩まなくていい、
「ゆっくり休めよ」
その言葉を最後に俺は背を向けて歩き出す。
「あっ」
歩く足を止めて後ろを振り返ると悠はまだ玄関の前に立っていて、俺が止まったことを不思議に思ったのか首をかしげている。
俺は手に持っていたココアの缶を悠に向かって投げた。
「それやるよ。もう冷えちまったけど」
一言言ってまた歩き始めると、後ろの方からお礼の言葉が聞こえた。
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