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それからぼくは男の子と一緒に暮らしました。
寒い冬は暖かい羽根で眠り、暖かい春は陽気に誘われて走り、暑い夏は少しばてて、涼しい秋にはたくさんのおいしい食べ物を食べて。
雨の日には濡れて、晴れの日には乾いて、雪の日には凍えて、雷の日には怯えて、風の日には飛ぼうとしてみる。
そんな日々を繰り返しているとぼくはおじいさんになっていた。
その時には男の子は少し大人の男の子になっていました。鳥が生きる時間と人が生きる時間は密度が同じでも少し違うのです。
僕は男の子に言います。
「ぼくが今まで過ごしてきた時間はそれなりに幸せだったと思うよ。」
「あるおねぇさんは言いました。歩けないことは不幸せではないと、少し不便になるだけだって。」
「ぼくも飛べなくなって分かったよ。鳥の幸せは飛ぶことだけではない。飛べなくたっておいしい物も食べれるし、素敵なガールフレンドもできる。」
「あるおじさんは言いました。仕事が嫌いな人間もいるって、鳥だって飛べない鳥もいれば早く飛べる鳥もいる。」
「鳥だって飛べることがすべてじゃない、飛べない鳥は他の方法でいくらでも幸せになれるんだ。」
「ぼくは言いました。誰かのためのぼくになりたいって、でも誰かのためのぼくであることだけではぼくは十分ではないのです。」
「ぼくが見てきた人はその人が思っているほどには幸せでも不幸せでもなかったよ。与えられたものだけでみんな十分に幸福だったし、与えられたものだけではみんな不満だった。」
「だからぼくはそれに気が付いた時点で幸せだったのさ、ぼくはかみさまにお願いして願いをかなえる鳥になった。でもそれで願いをかなえ続けても僕は満たされなかった。」
「でも、最後の願いで自分の幸せってやつを見つめることができたんだ、そして幸せの正体みたいなものも分かった。」
ぼくはもう、話すことができなくなりました。
とても眠いのです。とてもとても眠いのです。
そしてぼくは眠りました。
スッと世界が暗くなってぼくはせまい、でもあたたかくてずっとここにいたいような場所に落ちて行きました。
「ただいま」
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