49人が本棚に入れています
本棚に追加
「冗談ですよ」
演技とは思えない深刻さでしたけど。
「取り急ぎご挨拶までということで早々に帰られました」
「……そうですか」
「光港中学では、弦が仲良くさせていただいたそうで。あの通りの性格ですから、友達ができるのかと心配していましたので、少し安心しました」
笑えない心配だ。
高校でも、弦に友達と呼べる人はいなかったのだから。
学校での弦は、教室ではいつも居眠りしていて、体育でも寝ぼけ眼でとりあえず動いているだけって感じで、学校行事は参加したりしなかったり、しなかったり。
厭世家ぶったり、露骨に他人を拒絶したりこそしていなかったものの、積極的に人と関わろうとしてはいなかった。
いや、やっぱり人間関係を避けていたように思う。
そんな彼だから、それは当然の帰結といえるけど、自業自得ともいえるけど。
クラスでの弦は、いてもいなくても変わらない存在だった。
いうなれば机がひとつ余分にあるだけで、それで少し教室がせまくなってしまったくらいの影響しか及ぼさない。
人畜無害などではなく、空気ですらなく、路肩の石みたいな扱いだった。
特に文化祭の時はそれをたまらなく痛感して、いたたまれなくって、苦しかった。
本当の弦を、誰も知らないから。
知ろうともしてくれないことが、私にはたまらなく辛かった。
でももしかしたら、それを望んでやっていた弦にこそ、私は強い憤りを感じていたのかもしれない。
手前勝手な独善かもしれないけど、そうだとしても――。
最初のコメントを投稿しよう!