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四月八日、これから俺が通う高校である聖丹駈高校の入学式の日だ。
着慣れない制服に身を包み、桜の花びらを連れ去っていくように吹く風を受ける。
俺の緊張感とか、そういうのも一緒に連れてってくれればいいのに。そんな事を考えた。
「三年間、上手くやっていけんのかね」
正直自信は無い。これっぽっちも、屑程も。
ああ、お腹痛い。
「……あの」
「はい? って、あ、俺でいい?」
「間違いないです」
入学式の最中に惨劇を起こさないようにとトイレを探そうとした俺は、誰かに呼び止められた。
そして振り向いてみれば、見たこと無い美少女が立っていたのだ。
「きみ、誰だ? 制服は一緒みたいだけど」
「私はユキ。今日から聖丹駈高校に入学するの」
「いきなり名乗るとか頭おかしいんじゃねえの?」
「あなたに聞かれたから答えたんだけど!?」
そうでした。失礼、わざとだ。
でもしかし、初対面にもかかわらず自分の下の名前しか言わないのは疑うまでもなく変人だろ。おかしいだろうよ。
なんだお前は俺にいきなり下の名前で呼んでほしいのか? 卑しいビッチめ失せろクズが。
「で、あなたの名前は?」
「失せろ雌豚が、俺の名前を知るだけの礼節が貴様には身に付いていない」
俺は即座に踵を返し、今このコンディションで出せる全速力でその場を離脱した。
捕まった。
「私、陸上やってたから足は速いの」
「だから聞いてねえって気持ち悪い」
「さっきから初対面の人に失礼すぎない!?」
「初対面の人に慣れ慣れしすぎんだよ醜劣な糞ビイイイイイイイイイイイイイイッチが!!」
ええい離せ、俺は早くトイレに行きたいのだ。
喚きながら襟首を掴む腕を振り払おうとするも、どういうカラクリなのか全く離れない。もうこいつ本当に気持ち悪い。
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