織田信長と平手政秀

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「うあああああっ!」 まるで野獣のような咆哮が、人気の無い山中に響き渡る。 鬱蒼と木々が茂る森の中。その中心にぽっかりと拓いた平地に、その声の主である少年はいた。 彼の周囲を取り囲むは、大人の身長くらいもある四体の木偶人形。それらは緩慢な動きで、ふらふらと酔漢のように彷徨っている。 その様子を伺いながら、少年は鈍く輝く日本刀を構えていた。 乱雑に切りそろえられた黒髪が、僅かに吹きぬける風にたなびいて揺れる。 強い意志を纏った黒の瞳に力強く傘為すのは、きりりとした太い眉。 所々ほつれた黒い袴の隙間から、鍛え上げられた肉体が覗いていた。 「覇鬼・降着!」 自らを奮い立たせるような強い雄たけびを上げた少年の口から、力を持った言葉が放たれる。 すると、それに呼応するかのように少年の持つ日本刀が、淡い赤色の光を帯びた。 「覇斬刀・壱式!」 続く言葉は、更なる力を刀へと供与する。 光を帯びていた日本刀は、歪んだようにうねり、みるみるその形を変えていく。 細く鋭かった刀身が、まるで打って延ばしたように、その面積を広げていく。 やがて完成したものは、先ほどの形から大きく変形した巨大な片刃刀。 その仰々しい姿を確認すると、少年は勢い良く大地を蹴り、木偶人形に向かって疾駆した。
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