残留思念

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 以前までの彼ならばこのような行動をとる事はなかった。  自らを律し、無駄な交友や感情を捨て、果てには幼少期に抱いた理想すらも捨て、ただひたすらに現実的に、合理的にと努めた。  事故のあった日に出会った男の言葉を思い出す。  ――救える者だけを救う。  そういって両親と妹を見捨てた悪魔。しかしその考えは非常に合理的で最善だった。  あの時妹も救おうとしていたら? その男も蓮次も妹も、車の爆発に間に合わず共倒れになっていただろう。  事実。蓮次を救出し安全圏に到達した刹那に爆発は起こったのだから、男の判断は正しかった。  自分の命あっての正義の味方だ。そこに私情を挟み判断を鈍らせる等あってはならぬ事。  蓮次の称する悪魔は紛れも無い正義の味方であり、彼にとっての命の恩人に他ならない。  それなのに蓮次はその男を悪魔だと考える。いや、そう思わずにはいられないのだ。
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