残留思念

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 リディアと同じ正ヘルツフォーグ教会の法衣を纏う彼女は一切蓮次へと興味を示さない。  初見の相手に対し、ここまで無関心でいられるものだろうか。彼女はリディアへ歩を進める事もなく、扉の前で直立不動を決め込んでいる。 「シャセ、その男と共に行動なさい。事態によっては解本も許可しますわ」 「了解」  シャセと呼ばれた少女はそれだけ言葉を交わすと、再び扉へと向き直り部屋を後にする。  蓮次もそれに倣って部屋を出ようとした。 「ヘリックスの鐘は鳴った。麻生蓮次、貴方の願い、叶うといいですわね」  リディアは今まさに扉の向こう側に立ち、そこから立ち去らんとする蓮次へと言葉を掛けた。  扉は重苦しい音をたてながらゆっくりと閉じられていく。  蓮次は半身振り返り、部屋の中に座するリディアへ一瞥をくれると、直ぐさま先を行くシャセの後を追った。 「おかえりなさい、ノウア」  部屋に残されたリディアは呟くと、再び机に向かい筆を手に持つ。  筆の走る音だけが反響していた。
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