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男が巻き起こした事故で家族を失った。自分はそんな奴に命を救われた堕落者だ。正義を語るなど痴がましい。
蓮次は絶望に染まった事故現場でそう自分に言い聞かせていた。
(落ち着け……)
深呼吸は二回。蓮次はスイッチを切り替えるように呼吸を整えていく。
瞼をカッと見開き、悠然と歩を進める頃には、顔からは一切の迷いが払拭されていた。
(本を必ず手に入れてやる。全てはそこからだ)
先程まで存在しなかった強い意志を蓮次は持つ。
世界を造り変える。それはこの世界の歴史に対する冒涜かもしれない。だがそれでもいい。自分はこの世界では家族を見捨て、のうのうと生活をしている有象無象以下の存在なのだから。
蓮次がそう考えながら歩いていると、少し先で立ち止まり、彼を虚ろな眼差しで見つめているシャセが視界に入ってきた。
卑下するような、そんな侮蔑に満ちた視線は一拍もすると背けられ、彼女は再び先を歩み出した。
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