始界の声

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 後少しで妹の手に届く。決して広い車内ではなかったが、転落した影響でひしゃげた車体では満足に身体を動かす事もままならない。現に少年の下半身は運転座席と後部座席で挟まれており、身動きすらとれないのだ。  自らがそんな状態なのにも拘わらず、家族の事を先に考える思考は異常とも言えよう。自分の命あっての人助け、正義の味方なのだから。  暫くして少年の手は妹の手を握る事が出来た。しかしそこまで。この状態でどうやって救出など出来ようか。自分の身さえどうにも出来ないのに、とこの時幼い少年は頭でそれを理解した。だがそれを認めたくない。そんな葛藤が自身の内で繰り広げられた時、 「あぁ……良かった」  少年が座っていた座席側のドアがこじ開けられた。  車の外は草木が一部分枯れ果て、倒れ、異臭が漂う荒れ地と化しており、そんな場所に一人立つ男は黒く長い髪に獄炎を思わす程紅い双眸。やや疲れた表情を見せながら、少年を車内から引きずり出し、優しく抱えると直ぐさまその場を後にした。 「ま……待って……まだ妹やお父さんやお母さんが……」
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