一章

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 しかしどうだ、有輝の拳は頭へと至らず、それどころか硬いコンクリートのベッドから一ミリも離れてはいない。それもそのはず、有輝の両手は巨大な瓦礫に押し潰され、車に撥ねられた雨蛙の様に血肉をぶちまけていたのだ。  激しい雨に洗い流された血液が、緩やかな勾配を下って足下へと移動する。不思議と痛みは感じず、血圧の低下による体温の低下もない。しかし体内の熱だけは、雨の冷たさに一層敏感になるほど高まっていた。 「……で、名前は? 時間は有限なんだ。十秒以内に答えろ」  男は言い終わるやいなやカウントダウンを開始する。包丁を握った左手の筋肉が膨れ上がり、振り抜く力を溜めている様だ。
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