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「久喜さん!」 背後から声をかけられて振り返った。 「今日はありがとうございます!」 高揚した声と、満面の笑み。 式を終えて、感無量と言った感じか? 新郎の安積 祐斗だった。 「お招き頂きありがとうございます。おめでとうございます。」 笑みを浮かべながら形式的な挨拶をし、新郎に軽く頭を下げた。 「天気よくて良かったな。すごい式場。豪華でびっくりした。新しいし。やっぱり本宮が駄々こねたのか?」 迎賓館と名前が付いたその式場は、男の俺にはわからないけれど、女子が憧れるであろう造りだった。 照れ笑いしながら新郎は答える。 「かなりがんばりました。どうしてもここじゃなきゃ式挙げないって言われて。」 嬉しくて仕方ないといった顔で頭をかいている。 タキシードを着ていても、安積はニコニコしてると大学生に見える。 表現するなら、甘え上手なポメラニアンみたいで、ついついほっとけなくて、入社して教育係を外れても、何かあると世話を焼いてしまった。 「相変わらず尻に敷かれっ放しだな。でも、頑張った甲斐があったって事だな。ちゃんと本宮を喜ばせてやれるんだから、すごいと思うよ」 ほめ言葉に、彼の尻尾がバッサバッサと揺れるのが見えたように感じた。 「奥さんもぜひ来て欲しかったです。帰ったらよろしく伝えて下さいね」 「悪いな。呼んでもらったのに仕事が立て込んで」 「いえいえ、またこちらに来たら我が家に寄って下さい!!」 そう言うと、頭を軽く下げて、気分上々のにやけた新郎は次の招待客の挨拶へ行ってしまった。 挙式は親族だけで、披露宴からの招待が多い。これでも安積は大きい家の次男だそうで親族だけでかなりの人数になるらしい。 彼と新婦は職場の後輩。 安積が入社した時、俺が教育係だった。 一目惚れした同期入社の新婦、本宮 香をやっとの思いでゲットしたのだ。 披露宴からの出席者で段々と人が集まる。ここで一番大きな会場だから、どんだけ人が集まるんだろうか。 この場には知った顔が見受けられた。昨年まで一緒に働いていたのだから当たり前だ。居心地の悪さは感じなかった。 それでも、心の霧が晴れなかった。
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