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「海、初めてじゃないよね?」
かなり長い間、黙って海を眺め続ける私にぴーすけが笑いながら言った。
「……いくら海無し県育ちだからって、そんなわけないでしょ。
他の海なら行ったことあるわよ。
湘南とか九十九里とか…グアムとか?
ここは来たことないし、冬の海も初めてだけどね」
「全然違うだろ?」
ぴーすけが海に顔を向けたまま言う。
「うん。
こんなに広くて、大きいって感じたの初めて。
何か怖いみたい」
「確かに怖いよ。
人なんか簡単に飲み込んじゃうしね」
ぴーすけが私のところまで戻ってきながら言った。
「清雲さんが亡くなったのって、ここなの?」
「ううん。もう少しあっちの海水浴場」
「そっか…」
ぴーすけが指差した方を見ながら私は手を合わせた。
「あいつが死んでから、海なんて来る気にならないだろうと思ったけど、何かある度に見たくなるのは必ず海なんだよな」
「うん…」
分かるような気がした。
この広くて大きな自然は、どんな悲しみも悩みも受け止めてくれそうだ。
「なあ、ウメ」
また、しばらく2人で海を見つめ続けていたが、ぴーすけがふいに口を開いた。
「この海を見ても、まだ俺が海みたいだって思えるか?」
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