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「俺の彼女さー、すっげぇ可愛いの! そうそう、丁度これくらいでさー」  大学二年生になって初めてのクラスコンパの席でだった。  沢木武志(さわきたけし)は隣に座った佐伯優汰(さえきゆうた)に肩を抱き込まれた。 「え……」  武志が驚きで硬直しているのを良い事に、佐伯の行動は更に大胆になっていく。 「わー! お前の肩、彼女とそっくり。ほっそいなぁ」  「ホントそっくり」と言いながら、顔が接近してきた。  唇が触れる寸でのところで、武志は我に返った。 「馬…鹿にすんなぁっ!」  ガツッ!  思い切り、佐伯の顔面に拳を叩き付けた。  ガタッ!と派手な音を立てて、佐伯の長身が椅子から落ちた。充分な体勢からの拳ではなかったので、流石にひっくり返るには至らなかった。  周囲のざわめきの中、顔を押さえて佐伯が立ち上がった。 「いってぇなぁ。んだよ、お前俺の事好きだっつったじゃん」  武志は一気に血の気が引くのを感じた。しかし、次の瞬間には全身の血液が逆流する気がした。 「え? マジ?」 「何? ホモって事?」  戸惑いと好奇の声が広がる。 「あ? 俺は違うぜ? ちゃんと彼女いるし」  佐伯はさっさと自分は無関係だと主張する。周囲の視線が武志に集中した。  とてもじゃないが、その場に居続ける事は出来なかった。鞄をひっ掴み、学生会館の集会室の扉を体当たりするように押し開けた。  噛み付くように歩いて向かったのは自らのアパートではなく、余り人の訪れない校舎裏。 「あーあ……」  小さく呟いて、一本の木の根元に転がった。  武志が去った集会室では未だに戸惑いのざわめきが広がっている。その中で一人が立ち上がった。 「酒の席でも、やって良い事と悪い事は有るだろ? シラけた。帰る」 「えー? 石井君、まだ居てよー」  引き留める女子の声に軽く謝ると、石井圭祐(いしいけいすけ)は集会室を後にした。  武志は未だ木の根元に転がったまま、夜空を見上げていた。  武志とて、中学、高校時代に好きになった相手は女の子だった。性格良し容姿良しで、告白する前に彼氏が出来たり、既に彼氏がいるような子ばかりだったが。  仲良くはなれても、そこ止まり。身長158㎝の華奢な身体に大きな目の武志は、女性に可愛いと言う印象を抱かせるらしく、全く恋愛対象にしてもらえなかった。
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