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石井の去った講義室では、女子学生達が顔を見合せていた。
「えー、やだー、嘘ー」
「まさかぁ、そんな事有り得なーい……」
「でもさぁ……」
バイトが終わり、ロッカールームで着替えている武志の目に、携帯の点滅するランプが止まった。
メールの着信が一件、石井からだった。
『バイトお疲れ様。
ちゃんと話がしたい。
バイトが終わったら連絡くれないか?俺のバイトは10:30頃に終わるから』
時計を見ると、15分程過ぎている。
ロッカールームを出ながら、登録したばかりの番号にかけると、2コールで石井が電話に出た。
「お疲れ様~」
「ああ……で、話って何?」
「うわ、単刀直入だなぁ。電話じゃなんだからさ、沢木のうち行って良い? どこ?」
「別に良いけど。コーポ高橋の302」
上機嫌で話す石井と対照的に、武志の声はぶっきらぼうだ。
「夕飯は食べた?」
「バイトで賄い飯食った」
「そっか。じゃあ、何か酒とつまみ買って行くよ。ビールじゃないのが良いだろう? 何が飲みたい?」
「……」
武志の沈黙に石井は慌てた。
「あ、あれ? ビールが良かった? コンパで余りビール旨そうにしてなかったから……」
「うん、ビールより焼酎のが好きだ」
「……」
今度は石井の方が沈黙した。
「ビッ○マンとか大○郎とか想像してねぇか?」
「~うはっ……ごめん。想像しちゃった」
電話の向こうで石井がカラカラと笑った。
「んなデケェの要るか! ちっこいの一本で十分だ!」
「ごめん、悪かったって。じゃあ、後で」
武志がアパートに帰り着くと、既に扉の前に石井が待って居た。
「悪いっ。待ってたか?」
慌てて駆け寄り、鍵を開けた。
「あ、気にしないで。俺も今来たところ」
石井はいつもの笑顔を浮かべた。
武志がグラスを二つ持って行くと、狭いワンルームの中央に在るローテーブルに、石井がコンビニで買ったとおぼしき惣菜やつまみ類、酒を並べていた。二人分にしては少し量が多い。
「……もしかして、晩飯まだだったのか?」
「うん。悪いけど、食べさせてもらうよ。あ、沢木も欲しかったら食べてよ」
「なんか……悪かったなぁ」
「だぁから、気にしないでって。俺が押し掛けたんだしさ」
「で、話って?」
石井の買って来た、焼酎に口を付けながら再び話を促す。
「ああ、誤解を解いておきたくてさ」
「誤解?」
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