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「ああ、良かった…目を覚ました!優人君が目を覚ましましたよ!」
「こ、ここは?」
驚くことに、俺が目覚めたのは、病院のベッドの上だった。
朝のゴミ捨てに行き、居眠り運転の車に惹かれたことと、俺が死んだと思いこんで茜に告白したことしか覚えてない…。
「良かった優人ー!本当に良かった!」
抱きつく母親を嫌そうに押しのけ、俺は聞いた。
「俺ってどれくらい気を失ってたの?」
その質問に、医者らしき白衣の男が答えた。
「気を失ってたんじゃない、生死をさまよってた。君が起きるかは五分五分だったんだよ?」
何故か俺は拍子抜けた。あの体験はまさに、映画のラストシーンのようだった…それが実は生きてたなんて…なんか申し訳なかった。
そして夜になり、茜が馬鹿にした表情で病室に入って来た。
やはり、あれは夢じゃなかったか…
茜は急にベッドの前で膝を崩し、俺に手を差し伸べながら言った。
「茜、君を愛してる、結婚してくれないか?」
「誰の真似だそれ?俺の真似か?俺の真似なのか?」
「茜、僕が間違っていた。もう君しか見えないよ。」
「ああ確かに、もう馬鹿しか見えない」
急に茜は真顔に戻り、俺の頬を叩いた。
俺の頬は、今度はしっかりと良い音を鳴らした。
「私になんか言うことあるでしょ?」
「ああ…茜、好きだ。ずっと好きだったよ茜のこと。」
「やっと…言ってくれたね‥」
俺は茜を抱き寄せた。
ずっと無言で、ただ抱きしめていた。
しばらくして、茜は帰り支度を始めた。
そして、帰り際、ドアの前で茜は何かを言い忘れたかのように、振り返って言った。
「‘さようなら,」
その‘さようなら,は温かく、綺麗なものだった。
完。
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