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そのまま少し経つと
ずしり、とより体重が自分の方に加わった。
それに視線を下にやると、先程まで震えながら歪めていたその顔は
心なしか安らいだように見える。
涙で濡れている瞼を指の腹で軽く拭う。
眠ったのであろうその姿に、ほっ、と胸をなでおろす。
しかし、このまま寝てしまったとなると
彼の目にある異物が裏にいってしまう恐れがあると
保険医としての責任からか、起こしてしまうかもしれないが
閉じているまぶたを指であけ
どこか慣れた手つきでコンタクトを外す。
身じろぐ彼の背中をとん..とん..と一定の間隔で優しくたたく。
また動きが止まれば、起こさずすんだとほっと胸をなで下ろす。
腕のなかの彼を見つめ
いつもは隠されている、彼の月光を溶かしたかのような
きらめく銀糸を指ですくう。
指の間からするり、と流れるその髪は
落ちる間際には人工的な黒色へとかわっていく。
眉を寄せてしまうがそれは仕方がない。
だって、自分は
この子の元々の色が、形が、匂いがすきなのから。
再度、掬いとりそれに口づける。
赤子のように自分の腕の中で眠るこの子に
形容しがたいほどの愛しさや尊さが溢れだしてくる。
その感情が零れ落ちたかのように、口元を緩めては
そのまま抱き上げて立ち上がる。
その瞬間、ザアァーー...と木々を撫でるように風が吹き
とっさに目をつむる。
この木々のさざめきで
起きてしまっていないかと目を開け、下を向くと
その綺麗な睫毛が震え、夢現にこちらを見上げてた。
自分の中の時間が止まる。
木々のざわめきの中に確かに自分の息を飲む音がした。
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