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薄く開かれたその瞳は
確かに偽りの色ではなく
限りなく透き通った、自分の好きな色だ。
「むつ..にぃー..」
止まっていた時間の中で
うっすらと開いたその口から
かつて呼ばれていた愛称が紡がれる。
その瞬間。
己の中で、崩れる音がした。
感情の決壊。
弟のように接し、守らなくては。
歳の離れているこの子を見守らなくては、庇護しなくては。
友人であるこの子の兄達に面目がたたないから。
頼れる兄貴の立場でいよう。
せめて、この子の欲するものの邪魔をしないよう
必要最低限に干渉しよう。
だって自分はただのポーンであり
敵うはずなのだから。
そんなものが
崩れ落ちた瞬間だった。
いままで以上にきつく抱きしめ
そのまま地面に座り込む。
知っていた。
自分の中にある感情を。
幾ばくか歳の離れたこの子..彼に募らせていた恋慕を。
ただひたすらにそれを飲み込んで、なかったことにしてきた。
本来なら、その方がいいことも理解はしていたし
そうする予定だった。
しかし、たった先ほどの
ほんの刹那に
堅牢に積み上げてきたものが崩れ去っていた。
寝言のようなその呟きに、微睡みの中の瞳に
確かに自分が存在していた。
止まっていた時間が動き出す頃には
腕の中の人は深い眠りに落ちていて
自分はそんな彼の唇を奪っていた。
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