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ゆっくりと口を離しては
愛しそうにその輪郭をなぞる。
「なぁ、ありやいうっちゃって(全部捨てて)俺と逃げまい......。なんてだぼな事いっちょるんやろなぁ。」
声は届かない彼には聞こえるはずもないのに
ここから出て行こう、と返答のない問いかけをなげかけ
自分で回答する。
再度抱きしめ直し抱え上げると
ゆっくりと立ち上がり、保健室に向かおうとした足を止める。
そして、次に足を動かしたときは
その歩みは教師寮へと変更されていた。
だが、その歩みは
その先から放たれた鋭い視線に止められる。
「なァにィ?くれんの??」
見知らぬ生徒がたっていた。
白に近い金髪が、顔を隠してしまっているため確認ができないが
おそらく、身につけているものをみるとDクラスの生徒なのだろう。
獲物を見つけた猛獣のようにぎらついた瞳に動きが止まる。
眉をしかめて目を細める。
「堪忍なぁ、先生この子保健室に連れてくけん構ってれんもそ。」
しかし、この出来事で少し冷静になれたのか
教師寮に向けていた足を再度保健室の方向へと治す。
自分は、あのままだったら何をしでかしていたのだろうかと
不安さえ覚えてしまった。
「.......。そいつゥ、ポチだろォ。」
こちらに指を向け、不自然なまでに首をかしげて問いかけられる。
それはあくまで純粋な声色だった。
「ポチっていうんはちょっと納得しやんなぁ。」
「ククッ、なんて言えばいいんだァ?俺とポチはァ仲いいンだよォ」
「んん?そがーなことで、はぶてちゃーみっともなー(そんなことで、腹を立ててはみっともない)」
「日本語で喋ってくれていいぜェ。」
先ほどまで、自分のなかにあった確かな情操・煽情は引いていき
静かな落ち着きを取り戻せた。
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