時は金なり急がば回れ

34/34

8016人が本棚に入れています
本棚に追加
/320ページ
顔がうまく伺えないせいなのか 心配しているのかどうなのかはいまいちわからない。 だが、なにを言うでもなく暁音の顔を覗き込みながら 静かについてくるのに 害を加えようとしているわけではないのだろう。 保健室に向かいながら、白に近いその髪をゆらゆらと揺らす その生徒を観察していく。 「なァに?うぜェんですけどォ?」 「んーにゃ、なぁんも?」 「あァ?....ッチ。」 俺の視線が煩わしかったのか こちらを睨みつけているのが雰囲気から痛いほどに伝わってくる。 単純に若い、と思いまながら笑みを浮かべる。 そんなやり取りを何回か繰り返したのちに 自分の担当である保健室へと到着した。 ガラリ、と扉を開けると 出ていく前に見た、三人の姿はない。 心なしかその姿がないことに安堵している自分がいる。 やかましくされても堪らない。 「あはァー。やっぱァポチじゃん」 起こしてしまわぬようにゆっくりとベットへとおろすと その顔をようやく覗き込めたのか その長身を丸めて暁音の顔を覗き込む、白金の姿が見えた。 「さて、と。お前さん名前なんどい?」 「...チッ。ヴォルフ・紅(コウ)・上狼塚(カミオイヅカ)・ヴラディスラフ」 「えらく長い名前やな」 「覚えなくて全然いいぜェ。」 とは言いつつもきちんと名前を教えてくれるあたり 先程の嫌われる、というワードが強く彼、紅の中に居座っているらしい。 それになんだか微笑ましくて口元を緩めると 聞きなれた舌打ちとともに顔を顰められた気がした。 あとは、彼が目を覚ますのを待つだけ。 特に紅とは会話はなく、静かに彼を見つめる。 紅もつまんなそうにしながら、彼を見つめているあたり根はいいのだろう。 早く、その目を開いて、その瞳に俺を映して。 そしてまた、俺の名前を呼んでくれるだけで、それだけでかまわない。
/320ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8016人が本棚に入れています
本棚に追加