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TIME TRAVEL 2 曰くの石仏
「お母さん?」
母からの返事はなかった。
清香の母、成実は専業主婦で、子育てと家事以外には興味を持たない。
そんな母が、清香の帰宅時間に外出しているとは考えにくい。
しかも愛犬のりん太郎までもが出迎えに来ないことに、清香は一種の違和感を覚えた。
「お母さん、いないの?りんちゃん、りん太郎」
清香は靴を脱ぎ捨てた。
その時、すねの半分ほどの高さのある上がり框(玄関から上に上がる段差に取り付けられた横木のこと)にすねを強く打ち、清香は膝を抱えるようにしてしゃがみ込んだ。
「さいっ悪!」
打ったすねをさすりながら、しかめっ面の清香は上がり框を見つめた。
「バリアフリーなんてのとは無縁だわ、この家は」
幼少の頃から、何度も同じ場所で痛い思いをしてきたので、清香はこの上がり框が大嫌いであった。
清香の実家は東京、深川にある。
江戸初期、地方から移り住んで来た先祖が建てたと由緒書きにある。
幾度かの火災、震災、戦火に見舞われたが、その都度建て増しを繰り返した旧家だ。
最後の改築は太平洋戦争直後なので、現代建築とはほど遠い造りなのである。
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