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「時代遅れ!」
すねを強く打った方の足を少し引きずり気味に、清香は玄関から続く廊下を、居間の方角に向けて歩き始めた。
家の東側には純和風の、と言ってもなんとも質素な庭があり、庭を望める造りに設定された廊下の縁には縁側が設けられていた。
建坪三百、総面積が四百坪ほどもある清香の自宅の庭には、樹齢60年の桜の大木がその身をそびえさせていた。
「りん太郎?そんなところにいたの」
大きな悪戯をしない限り、家で放し飼いの犬のりん太郎が、周囲300センチもあろうという大木にリードで括られていた。
「ふふふっ……花だらけじゃない」
清香は笑いながら、庭の草履をつっかけた。
「クンクン……」
「いま助けてあげるわよフフフ」
見頃を終えた桜の花びらに埋もれるように立つりん太郎の姿が可笑しかった。
「りんちゃん」
「クーンクーン」
りん太郎が後ろ足だけで立ち、首輪に身体を預けるような格好で清香においで、おいでと両前足を合わせて振っている。
「首を吊るわよりんちゃん」
清香がりん太郎の首輪からリードを外し、りん太郎を抱きかかえた。
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