1227人が本棚に入れています
本棚に追加
りん太郎が清香の鼻の辺りをぺろぺろ舐める。
「やめてぇ」
りん太郎の黒く濡れた鼻先が頬に当たった。
「顔を舐めてはいけませんよ。いつも言ってるじゃない。同じお口であなたはおしりを舐めるでしょう、汚いじゃないの」
清香は手の甲で頬を拭き、拭いた同じ方の掌で未だ舐め続けるりん太郎の口を掴んで阻止した。
口を掴まれたりん太郎は固まった。
マルチーズとシーズーを両親に持つりん太郎は、白をベースにうす茶が混じったロン毛で、胴が異常に長いうなぎ犬だ。
元々りん太郎は、知美が親戚から譲り受けた子犬である。
最初は愛らしかったのだが、生後半年すぎた頃、容姿に著しい変貌を見せたのを理由に、清香に押しつけたのだ。
経緯はどうであれ、清香はりん太郎を預かったことを知美に感謝していた。
三人家族にはこの自宅は広すぎた。
りん太郎が加わったことで家族の間に会話も増え、共同でする作業やレジャーも増えたように思える。
それになんと言っても、昼間、一人きりで家で過ごす母親に潤いを与えた。
「どうしてこんなところに繋がれちゃったの?悪さをしたの?お母さんはどうしたの?」
言いながら周囲を見渡すと、しだれ桜の細い枝の隙間から緋毛氈
(赤いもうせん・フェルト地の敷物)
が見えた。
最初のコメントを投稿しよう!