仲間と刀

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壬生浪士組での生活の流れはこうだ。 朝は当番制で朝食を作り、当番以外のものは食事ができるまで朝稽古を行う。 朝食後、何人かで纏まり京の町を見回る、いわゆる巡察と呼ばれているもの行う。 巡察組以外は自主稽古や洗濯、数人は遊びに出掛けたりしている。 私は斎藤さんにここでの仕事を教わり、最近は生活にも少し慣れてきていた。 今日は巡察もなく、特に予定が無かった為、あまり人の来ない土方さんの部屋の近くにあるお気に入りの縁側で一人休んでいた。 「おい、てめぇまたここに来てたのか。」 背後から、機嫌の悪そうな低い声が聞こえた。 「別に土方さんに迷惑かけることしていませんが。」 振り返らずにそう言うと、いつもは嫌みを一言吐いてすぐに自室に戻る土方が今日は珍しく蒼の隣に座った。 「ここでの暮らしには慣れたのか。他の奴らとはうまくやってるのか。」 「まぁ。」 本当のところ、蒼は極力人との関わりを避けているため、蒼に話しかけてくる幹部たち以外の平隊士とは殆ど話したことがなかった。 蒼は基本無表情ではあるが、整った顔をしており、長く綺麗に纏められた髪が風になびく姿は、今にも散ってしまいそうな桜の花のように儚げである。そんな蒼を遠巻きから見惚れている隊士がいることに蒼は気づいていなかった。 「お前はあまり自分のことを話さねえからな、総司につかまる前は用心棒をしてたらしいな。」 「はい。お金のためにやっていただけです。私には刀を振るうことしか出来ないので。」 私は、元々記憶が無い為、なぜ自分が生まれてきたのかも分からない。でも、この刀はそんな私の唯一の家族のようなものなのだ。 「お前には刀を振るう時に信念みてぇなのはねぇのか?」 土方の問いかけに蒼は一瞬戸惑ったが、嘘をつけばすぐにバレてしまうだろうと思い、俯きながらゆっくりと話だした。
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