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「…樹、それ俺に言ってんのか?」
「あんた以外に誰がいるのよ」
振り向いた幼なじみはさも当然という風に笑っている
それでもその笑顔が俺を見ていないことは感じ取れた
「金木犀、やっぱりこれを見ると、陽頼を思い出すね」
そこに、オレンジ色の金木犀の花が咲いていた
金木犀の強い香りが漂う
それだけで、俺たちは陽頼のことを思い出すんだ
俺たちの通っていた中学には、金木犀の木がこれでもかっていうくらいに植えられていて、
毎年花の咲く季節にはその香りが俺たちを包んでいた
そして陽頼が死んだ日
そのときも金木犀の香る季節だった
中学を卒業しても、街中にある金木犀が咲く季節になると、いやでもその日を思い出す
だから毎年、俺たちは陽頼を忘れられない
「狡ぃよなぁ…」
「うん、狡いよね」
俺の小さな呟きに頷き返した樹の返事は、きっと俺の考えてることとは違ったけど
風にのった金木犀の香りがふと、俺たちの間を駆け抜けた
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