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「おい、甲斐!まぁたここにいたのか!!」
唐突にぶっきらぼうな声が聞こえてぎくりと振り返ると、精悍な顔つきの青年が仁王立ちしていた。
彼は壬生帯刀(みぶたてわき)である。年は二十二歳。
氏長に仕え、若くして家老を担う将来有望な甲斐の幼馴染であり、彼女のお目付け役でもある。
どうやらこっそり城から抜け出していたお姫様を連れ戻しに来たらしい。
「うげ」
「うげとは何だ、うげとは」
「おや、帯刀じゃないか。今日も来たのかい?」
そういって団子屋の奥から顔を出したのは温厚そうな老婆だった。白髪で皺くちゃの顔、小柄で曲がった腰をさすっている。
彼女こそがこの団子屋の主人であり、帯刀の祖母なのである。
「ばーちゃん!」
「お前はいつもいつも飽きずによく来るねぇ」
「仕方ないだろ。毎日毎日脱走するどっかの誰かさんを迎えに来たんだ。全く、姫としての自覚がなさすぎる」
帯刀は苛立ちを隠せない様子でちくちくと言った。
今にも怒鳴りだしそうな剣幕だ。
「まぁまぁ、帯刀。そんなに目くじらを立てなくってもいいじゃないか」
「ばーちゃんもばーちゃんだぜ?」
帯刀は呆れたように老婆を目配せした後、口をとがらせた。
「あのなぁ、ばーちゃん。いつも言ってるけど、こいつが来ても追い返してくれよ!」
「なんでかね?」
「なんでって…こいつはこんなんでも一応、姫なのっ!こんなところでうろうろしてて何かあったら困るだろ!」
「何かって何も起こらないわよ」
「そんなのわからないだろ」
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