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「だいたい帯刀は過保護すぎるのよ。私だって子供じゃないし、いざとなったらそこらへんの男より強い自信があるんだからっ!」
確かに彼女は幼いころから氏長の教えで武芸を学び、今では男に勝てずとも劣らない腕前の持ち主なのである。
おかげで性格もしとやかからは程遠く、いささか…いや、かなりお転婆で男勝りに育ってしまった。
しかし、そうはいっても甲斐とて女であり姫なのである。
すぐに無茶をする甲斐を心配して氏長がお目付け役として帯刀をつけるのも無理はなかった。
「あのなぁ。お前が強いのはオレもよぉーく知ってるが…小田原では今も殿が必死に戦ってるんだぞ?ここだっていつ何が起こるかわからないんだ。城で大人しくしてろよ」
帯刀が言いたいこともわからないでもない、が…甲斐にとっては面白くない話だった。
「わかってる。けど、そんなのイヤ!城に籠るなんて退屈で死にそうよ!!」
じっとしているのは性に合わないと常日頃から思っていた甲斐である。
「だからって毎日毎日抜け出して。巻や敦はちゃんと城で大人しくしてるだろうが」
巻と敦というのは甲斐の妹たちのことである。
彼女たちは甲斐と違い、大人しく女らしいので一日中城内にいても苦にはならないらしい。
「だから何よ。私はどうせあの子たちみたいに女らしくないんだからいいんですーっ!」
そうなのだ。
甲斐はお転婆に育ってしまったせいか、東国一の美女と謳われる美貌を持ちながらも女の子特有の遊びには興味を持たなかった。
当然お洒落にも無頓着で着飾らないのが非常に残念至極である。
「そんなんだからいつになっても嫁ぎ先が決まらないんだ」
そういったのは言葉のあやで、帯刀自身は甲斐に嫁いでは欲しくはないのだけれど。
「うるさいわね!嫁ぎ先が決まらないんじゃなくて、私が断ってるの!私は自分を安売りしたりしないんだから」
「どうだか」
「その顔は信じてないわね!?こう見えても私に恋文を送ってくる人、大勢いるんだからねっ!!」
「どうせお前の見た目に騙されてんだろ?見た目だけは美人だからな」
「見た目だけってどういう意味よ。失礼ね」
「嫁ぎ先をあんまり選り好みしているとあっという間にババアだぞ」
「はぁ!?」
「ま、でも安心しろよ。どうしても嫁ぎ先が見つからなかったらオレが貰ってやるから」
そういって帯刀はニッと悪戯な笑みを浮かべた。
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