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実を言うとこの帯刀、幼いころから甲斐に惚れているのである。
それはすでに周知の事実でもある。
「そうなったらうちの団子屋も安泰だねぇ」
のんびりとそういったのは話を横で聞いていたおばーちゃんである。
「言っとくけど、団子屋なんてオレは継がねぇぞ!」
「どうしてだい!?お侍なんかやってるよりあんたにずっと合ってると思うけど。それに甲斐ちゃんは働き者だし美人だから客商売には向いてると思うんだけどねぇ。実際、毎日手伝いに来てくれて助かってるんだ」
「でっしょーっ?」
「なっ…ばーちゃん!ばーちゃんがそんなこと言うから調子に乗って毎日ここに来るんじゃねぇか。少しはオレの身にもなってくれよ」
「そんなの好きで甲斐ちゃん追いかけてるんだからあたしには関係ないよ」
「なっ…好きで追いかけてなんか…」
「ないっていうのかい?相変わらず素直じゃない子だね。こんなにバレバレなのに」
すっかりおばあちゃんの勢いに負けてたじたじの帯刀である。
だが、おばあちゃんの口は止まらない。
「大体ねぇ…本来ならあんたが店を手伝うべきなんだ。なのにうちの馬鹿孫はちっとも手伝いやしない。少しは甲斐ちゃんを見習ったらどうだい?」
「そうよ!おばあちゃん1人でお店を切り盛りするのは大変なんだから!」
「オレはそもそも商売なんて向いてないんだよ。それに城でやることはいくらでも…」
「だったら代わりに手伝ってくれる甲斐ちゃんに感謝するんだね。甲斐ちゃんが手伝ってくれるようになってから店の評判もいいし、どこぞの剣術馬鹿とは大違いだよ」
「馬鹿馬鹿いうな…」
甲斐を連れ戻しに来たはずが、すっかり矛先が自分に向いてしまい帯刀は困惑した。
さすがに2対1では歩が悪い。
そんな時。
「すまぬ、やっているか?」
どうやらお客さんが来たらしい。
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