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甲斐は唯一前妻の子だったが、三人いる娘の中でも一番賢く文武に長け、兵法にさえ通じる自慢の娘だった。
しかも今では長刀の名人と名高く、戦術のセンスは目を見張るものがある。
男ならば間違いなく家督を継いだであろう。
そんな娘の問いに氏長は隠すことなく書状の通り答えた。
「うむ。書状で知らせてきたところによれば、北条殿の元に関白殿下より討伐の旨が記された書状が届いたそうだ」
「なぜです?北条家は関白の傘下にあったはずでは?」
「私も詳しくは知らぬが…風の噂によれば北条家は関白の命に逆らったのだとか」
「それで関白の怒りを買ったと?」
「恐らくは」
「ならば、その戦、どうしても援軍に駆けつけなければならないのですか?」
甲斐は心なしか心配そうに氏長を見上げる。
それもそのはず。
北条家が敵に回したのは天下の豊臣秀吉、その人である。
おそらく関白の命ならば日本各地から大名が加勢するだろう。
その兵力の差は言うまでもなく歴然としている。
「父上、この度の戦は北条家が自ら招いた結果。関白殿下が憎いのは我々ではございません。北条家に肩入れをしても結果は見えているのでは?」
「確かに戦局は厳しいものとなるだろう」
「それならばいっそ、北条家を離反し豊臣の傘下に入ってはいかがでしょう?」
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