小田原へ

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「それは主を鞍替えせよ、ということか?」 「はい。北条家に恩あれども、今の状況を見れば鞍替えするのも恥ではございません!」 彼女はそういって氏長を説得しようとしたが 、彼は首を縦には振らなかった。 とはいえ、甲斐が言おうとしていることは痛いほど良くわかる。 相手を見れば結果は目に見えていたし、負け戦に身を投じたくないのは氏長だって一緒だ。 自軍を危険にさらしたくはない。 だが、過去に成田家は北条家に救われた恩がある。 今の成田家があるのは北条家の助けがあってこそ。それを思うと見捨てるのは心苦しく、氏長の心は大いに揺れた。 「北条家もとんだ怪物に戦いを挑んだものだ」 そんな時、ぽつりとこぼしたのは家老で氏長の幼馴染でもある正木丹波守利英だった。 彼は男気があり、冷静で頭の良い男だった。 「丹波も甲斐と同じで関白殿下の傘下に下るべきだと思うか?」 氏長が尋ねると彼は思案顔で言った。 「自軍の安全を取るなら傘下に下るのが無難だろうな。だが、お前は北条家を選ぶだろう」 「なぜ?どうしてそう思う?」 「オレの知っている成田氏長という男は義を重んじる男だからだ。成田家がその昔、北条家に助けられたことはオレ自身も知っている。成田家のことを思えば結果がどうであれ、北条家の要請を受けるのが必定だろう」 「確かに」
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