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「それにどちらへつこうがリスクはある。豊臣軍の傘下に下れば被害は最小ですむだろうが…その後の保証はない。恩を仇で返せば北条家にも恨まれることになるだろう。それなら義を貫き通して北条家につくのも一興だと、オレは思う。愚かだとは思うが、関白を敵にまわす勇ましさは嫌いじゃない」
正木は思いがけず北条軍に加勢することに賛成 らしい。
「まぁ、どちらを選ぶにしろオレは氏長の決定に従うし、恨んだりしないから安心しろよ」
「丹波」
ぶっきらぼうな物言いではあったが、正木の言葉を受けて氏長はついに苦渋の決断を下した。
「よし、決めた!」
氏長は立ち上がると堂々と声を張り上げた。
「やはり忍城軍は小田原の北条家に加勢することにする!」
「それでこそ氏長だな」
正木はそういってニッと笑う。
「厳しい戦いになるのは承知の上だが、やはり私は北条家を見捨てるわけにはいかぬ。成田家とて北条家の助けがあり、今こうして現存しておれるのだ。今こそ恩を返すとき!」
きっぱりと言ってのけた氏長に迷いはなく、清々しい面持ちをしていた。
「こんな私のわがままを聞いてくれるか ?」
「ああ」
「父上がそうご決断されたのなら異論はありません」
正木や甲斐を初めとして家臣たちは次々に同意を示した。
この時代、御家同士の繋がりが大きな意味を持つのは当たり前であったし、氏長にとっても辛い決断であったことは安易に察しがついたからである。
それに領主としてたとえ負け戦になろうとも義のため戦おうとするその姿勢は立派でもあった。
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