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「良い家臣たちを持って私はなんと幸せ者だろう。そなたたちには迷惑をかけるが、共に戦えることを誇りに思うぞ」
「殿の命であれば地獄の果てまでもお供いたします」
「何、地獄までか?それは心強いな」
「父上!地獄などと縁起でもないことをおっしゃらないでください。私や母上、巻も敦も忍城にてお待ち申し上げておりますから必ずや元気な姿でお戻りください」
「もちろんだ」
甲斐が軽口を窘(たしな)めると氏長は嬉しそうに笑った。
「そうそう、私が留守の間、城のことは叔父上にお任せしようと思う。泰季殿は頼もしいお方だ。必ずやこの城を守ってくれるだろう。お任せしてよろしいですね?」
氏長の叔父・成田泰季はすでに高齢ではあったが、猛々しく豪快な性格で度胸があり、人をまとめる器量も兼ね備えていたことから家臣たちからの信頼も厚かった。
忍城軍として戦場に出るにはやや不都合はあったものの、忍城を守るにはまさにうってつけの人物だと言える。
「こんな年寄りでよければ謹んでお受けいたそう」
そういいながらも泰季はにんまりと得意気に笑った。
「城は手薄 になるが、わずかながら兵も残していく。いつなん時に敵が攻めてくるかわからない。残った者たちで何とかこの城を守ってくれ」
「はっ!」
「甲斐、お前は私の自慢の娘だ。頼りにしているぞ。小田原城が落ちるまでは決して城は渡すではない」
「はい、父上」
「月子や巻、敦のこともよろしく頼むぞ」
「この甲斐にお任せください」
甲斐は深々と氏長に頭を下げた。
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